小動物臨床総合誌 MVM(エムブイエム)、小動物腫瘍臨床 Joncol(ジョンコル)、獣医眼科プラクティス、動物看護コアテキスト 発行-ファームプレス

学会・セミナーレポート

第13回 COSDーworkshop 開催される

 2023年2月22日(水)、23日(木・祝)の2日間にわたり、静岡県・下田東急ホテルにて、第13回 COSD(Comparative Ocular Surface Diseases)–workshopが開催された。本セミナーは2014年からはじまった眼表面疾患に特化した学術交流会であり、これまで日本国内では主に北海道・ニセコなどで開催されてきたが、今回約3年振りの開催地として、太平洋が見渡せる伊豆・下田にて行われた。2日間のうち、初日のセミナーを取材したので、その概要を報告する。
 第13回のテーマは「COSDWへの回顧と展望」と題し、これまで計12回にわたって行われた過去のテーマとそのディスカッションの内容をとり上げ、とくに犬猫の量的および質的な涙液の低下について、これまで発表および議論してきたものを振り返るというものであった。
 両日にわたるメインスピーカーは、堀 裕一先生(東邦大学)、David J. Maggs先生(UCデイビス)、齋藤陽彦先生(トライアングル動物眼科診療室)、Brian C. Leonard先生(UCデイビス、リモートによる講演)、Lionel Sebbag先生(ヘブライ大学、リモートによる講演)、岩下紘子先生(トライアングル動物眼科診療室)が務められた。そのほか一般口演、ディスカッションが行われた。
 今回にて本会の幹事がBrian C. Leonard先生、Lionel Sebbag先生、岩下紘子先生にバトンタッチとなったが、主催者である齋藤陽彦先生は、「約3年振りの開催で、今回は急きょ準備したこともあって関東から近く、それでいて少し非日常が味わえる伊豆という場所を選んだ。また、海外のゲストがリモートでの参加だったため今回はハイブリットでの開催となった。今後国内での開催と海外での開催になると思われるが、国内開催の際には対面でDeepなDiscussionができる機会となることを希望している。」とのこと。今回、日本全国からも先生方が参加され、すべて英語の講演による最新知見に久しぶりの刺激を得られたと思われる。余談であるが、会場近くにある了仙寺は黒船襲来時の開国に深く関係する場所であり、それから150年以上経過した今、海外の先生方と日本の先生方が議論を重ねる風景は感慨深いものであると感じた。

会場の様子

(公社)東京都獣医師会 ワンヘルス講演会を開催

 2023年1月22日(日)、都市センターホテル(東京都)にて、(公社)東京都獣医師会主催によるワンヘルス講演会「福岡県におけるワンヘルスの取組みと期待」が草場治雄先生(〈公社〉福岡県獣医師会 会長)を迎え開催された。

 日本で「ワンヘルス〈One Health〉」という概念を大きく牽引してきた福岡県獣医師会。本講演では「アジアの玄関口」としての歴史、福岡出身の免疫学者で狂犬病ワクチンの開発に大きく貢献された獣医師の梅野信吉先生の話題にもふれる他、2016年の「第2回 世界獣医師会・世界医師会 ワンヘルスに関する国際会議」(福岡県)での「福岡宣言」の発布や昨年(2022年)7月に「FAVA One Health Fukuoka Office」が設立されたこと、同年11月の「第21回アジア獣医師会連合(FAVA)福岡大会」では大会最終日に「アジアワンヘルス福岡宣言2022」が採択されたことなど、活動内容を紹介された。
さらに「〈アジアワンヘルス福岡宣言2022〉では、1.人と動物の共通感染症の予防とまん延防止、2.薬剤耐性菌への対策のさらなる推進、3.生物多様性の維持や地球規模の保護、4.獣医学教育の更なる整備と国際連携、5.医療機関や行政、市民団体、大学、国際機構等との連携によるワンヘルスの推進、6.ワンヘルス研究や教育のためFAVA活動の拠点と整備の強化が謳われた」と宣言の内容も紹介され、会場は「ワンヘルス」という概念への理解を深めた。

 福岡県ではワンヘルス条例の施行により、「保険環境研究所」と「動物保健衛生所(仮称)」が相互に連携した「ワンヘルスセンター」がみやま市に整備され、愛玩動物、野生動物、産業動物などを一元的に対応している。

 講演後の質疑応答では、「今後〈ワンヘルス〉を学問として確立していくうえで、大学教育へ如何に取り込んでいけばよいか」などネクストアクションにむけての具体的な質問が寄せられ、草場先生が一つひとつ丁寧に誠実に答えられていく姿が、印象的であった。


草場治雄先生(〈公社〉福岡県獣医師会 会長)。
ワンヘルスの概念を広めるため、今後は教育活動が重要という


上野弘道先生(〈公社〉東京都獣医師会 会長)。
馬医からはじまり産業動物・小動物の獣医師というように
時代のニーズとともに獣医師の役割も変化してきました。
「ワンヘルス」という概念も念頭に務めることも、
新しい獣医師のあり方と考えられるという

(公社)東京都獣医師会 災害時獣医療支援チーム「東京VMAT」を立ち上げる

 1月22日(日)、都市センターホテル(東京都)にて、「東京VMAT」立ち上げに伴い任命式が開催された。
VMAT(Veterinary Medical Assistance Team;災害時獣医療支援チーム)は、災害時に被災地における獣医療支援などを行うために、専門的な教育をうけた獣医師を主体とした獣医療チームである。主な活動内容は、被災地の調査、被災地における連絡体制の確立、現地動物病院の業務再開に向けた支援、情報の収集と共有、災害救助犬の治療などを行う。

 日本では2011年の東日本大震災の経験をふまえ、2012年に日本ではじめて、福岡県獣医師会が「福岡VMAT」を組織。その後、複数の地方獣医師会がVMATを結成している。
 この度、(公社)東京都獣医師会(以下、本会)は2023年1月22日にVMATを組織し、「東京VMAT」の第一期隊員として18人を任命した。今後は都内で災害が発生した場合、被災地域支部からの要請および本会危機管理室長(災害対策本部設置時には災害対策本部長)の判断により、活動可能な東京VMAT隊員のなかから派遣隊を組織し必要な活動を行うこととなる。また、東京都以外の道府県の災害発生時は、当該地方会および(公社)日本獣医師会からの要請により、本会の危機管理室長の判断にて同様の活動を行うことができる。

 「東京VMAT」は本会の危機管理室が定めるVMAT研修プログラムの修了者により構成される。このプログラムは、本会会員または会員が開設する動物診療施設勤務者などが受講できるが、当面の間は会員獣医師に限られる。研修プログラム修了者には「東京VMAT隊員証」が授与され隊員名簿に登録される。所定の研修を修了した者に「東京VMAT隊員証」を授与され隊員名簿に登録される。

 「災害時は自助、共助、公助、そして互助の精神が大切です。お互いに助け合わなければ。」と上野会長。万が一の災害発生に備え、獣医師会全体として日頃からの協力体制づくりが重要であることを再認識する任命式であった。


上野弘道先生(危機管理室長/(公社)東京都獣医師会 会長)。
「互助」の精神が大切であると語る


藤本順介先生(危機管理室情報統括/東京都獣医師会 武蔵野三鷹支部)。
本会の災害対応の特徴や東京都の被災想定など、東京VMATをとりまく
最新の状況を解説された


任命式の様子。所定の研修を修了した有資格者には
「東京VMAT任命書」が授与され、東京VMAT隊員名簿に登録される


任命式にて。「東京VMAT」第一期隊員の方々とブロック長の羽太真由美(町田支部)、伊東秀行(葛飾支部)。
第一期隊員は、安部浩之(城北支部)、石森斉子(江東支部)、磯 洋一(足立支部)、入交眞巳(動物薬事支部)、植松一良(多摩西支部)、河合博明(八王子支部)、木村章子(多摩西支部)、木村譲(多摩東支部)、斎藤朋子(八王子支部)、斉藤勝之(新宿支部)、清野光司(多摩西支部)、髙橋恒彦(新宿支部)、谷川久仁(中野支部)、中川清志(北多摩支部)、中島 豪(多摩東支部)、名川一史(練馬支部)、藤本順介(武蔵野三鷹支部)、安田辰巳(江戸川支部)※敬称略

第27回 日本獣医がん学会開催される

 2023年1月28日(土)と29日(日)、ホテルニューオータニ大阪において第27回日本獣医がん学会が開催された。さらに両日の様子は、2月7日(火)~2月28日(火)にわたり、VETSCOPE(http://vetscope.vet/)においてオンライン録画配信された。
 会場展示11社、ランチョンセミナー協賛2社、講演要旨集広告協力6社、オンライン協力・動画CM協力2社による協賛があり、会場参加者は430名、オンラインも含めた総参加者は約900名であった。昨年夏の東京会場開催から会場参加者も増加し、感染症対策を施しながら本格的に再始動した印象の大会となった。
 会場では、獣医師と医師がそれぞれの立場から「がん終末期のケア」をテーマに講演と総合討論を行った。また、「外科シンポジウム」でも獣医師と医師によって「頭頸部腫瘍切除後の再建外科」が講演された。そのほか、「総合教育講演」、「教育講演」、「一般口演/臨床研究・症例報告」に加え、「トピック:Veterinary Cancer Society アップデート2022」では獣医腫瘍学のホットトピックが解説・紹介され、会場参加型企画「続・仮説演繹法を用いた診断ステップ」も昨年夏に引き続いて実施された。このように充実したプログラム各会場では、参加者の熱心な意見交換がみられた。

メインシンポジウム総合討論の会場の様子

第12回 動物看護大会

 第12回となる(一社)日本動物看護職協会主催「動物看護大会」が2022年12月12日〜2023年1月8日(当初の終了日2022年12月25日から好評につき延長された)、昨年同様オンラインにて開催された。今回は、愛玩動物看護師国家試験直前のタイミングということから、「愛玩動物看護師 国家資格取得後の未来」をテーマに、国家試験対策に重きを置いたセミナーが多数用意された。

 動物看護師という職業の歴史を振り返る「イギリス・アメリカ・日本の動物看護の歴史から見る愛玩動物看護師」(山川伊津子先生、ヤマザキ動物看護専門職短期大学)をはじめ、動物看護師の資格制度の先進国であるアメリカと日本の現状を比較し、愛玩動物看護師がどのような資格へと発展していくべきかを考える「ケアの質、やり甲斐、利益の交差点:愛玩動物看護師をどう活用するべきか?」(Kenichiro Yagi氏、獣医療救急グループ主任動物看護師兼RECOVERプログラムディレクター)は、改めて今、獣医療関係者が当事者としてみるべき内容ではないかと思われた。

 国家試験対策として「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」(西村裕子先生、千葉科学大学 動物危機管理教育研究センター)、「統一認定試験徹底分析 そこから読み解く国試攻略法」(鈴木 勝先生、獣医師国家試験対策研究会代表)といったセミナーでは、どのように試験対策を練るべきかや、効率のよい勉強法が具体的に示され、試験勉強に苦慮する受験生への力強いエールとなったと思われる。

 また、座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」では、Yagi氏、末松正弘先生(AMC末松動物病院院長)、横田淳子日本動物看護職協会会長、中村陽子同副会長が、それぞれの立場から描く愛玩動物看護師の目指すべき姿や目標を語る、熱のこもった内容であった。なかでも、Yagi氏の「動物看護師は離職率が高い。離職させないためには、周囲から評価を得てモチベーションを維持する必要がある」「そうした点も含めて獣医師にリーダーシップを求めたい」といった言葉は、今後、愛玩動物看護師が活躍するうえで重要なポイントとなっていくのではないだろうか。また、末松先生からは、「愛玩動物看護師が誕生したあとの継続的な支援、待遇をどのようにすすめるかを考える必要がある」といった、獣医師、動物病院の経営者の立場からのお話も伺うことができた。

 愛玩動物看護師の誕生は、当事者である愛玩動物看護師を目指す者だけでなく、すべての動物医療関係者に大きくかかわる出来事でありながらも、これまでは、どのように具体的にかかわるかについてはっきり語られてこなかったのではないかと思われる。同大会のような場を通して、さまざまな立場で愛玩動物看護師という新しい職業について考え、討論することが愛玩動物看護師、ひいてはこれからの獣医療をつくっていくことにつながるのではないだろうか。

(一社)日本動物看護職協会HP https://www.jvna.or.jp/

座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」の様子



西村裕子先生「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」の様子

第109回HGPIセミナー「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える」開催

 12月9日(金)、日本医療政策機構(HGPI:Health and Global Policy Institute、代表理事、黒川 清氏)による、第109回HGPIセミナーがオンラインにて開催された。
 本機構は非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクとして2004年に設立された。設立以来、中立的かつグローバルなシンクタンクとして、市民主体の医療政策を実現すべく、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供している。

 109回を迎えるこの度のセミナーは「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える-薬剤耐性の現状と対策・伴侶動物と新興感染症」をテーマにオンラインで配信。薬剤耐性(AMR)への対策について、村田佳輝先生(むらた動物病院、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター、獣医臨床感染症研究会(VICA))が登壇し、「1.One Healthの知識/人獣共通感染症とその対策」「2.小動物臨床での抗菌薬使用状況」「3.小動物臨床での分離菌」「4.小動物臨床での薬剤耐性菌の現状」「5.薬剤耐性(AMR)対策と獣医臨床感染症研究会(VICA)」の5つの項目にわけて詳細に解説。
セミナーでは咬傷感染症やレプトスピラ症、SFTS、Q熱、ブルセラ症といった人獣共通感染症での症例ごとの感染防御方法や、耐性菌の出現要因として抗菌薬の過剰使用や誤用について、獣医師の立場から解説。愛玩動物での抗菌薬販売量や尿培養分離菌種別の薬剤耐性率といった内容が、ご自身の動物病院や、会長を務める「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の過去データや症例をまじえ、詳細にかつわかりやすく紹介された。
 小動物臨床において薬剤耐性菌は増加傾向にあること、抗菌薬の慎重使用の徹底、抗菌薬使用量の調査継続の重要性、また2013年に臨床獣医師の有志により立ち上げられた「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の活動内容も紹介された。同会の動物病院の単位であるもののアンチバイオグラム(薬剤感受性率)の利用で広域抗菌薬の慎重使用による耐性菌の減少が数値で示され、その結果、アンチバイオグラムの効果的な利用により耐性菌減少が可能であることが証明されたという報告がなされた。

 本セミナーは獣医師の他、幅広い職種の、そして広い年齢層の聴講者が参加し、最後の質疑応答では、獣医療以外の多角的な視点からも質問が多数よせられた。村田先生が獣医師の立場から、新型コロナウイルスとの関連、動物-ヒトへの感染、体重や年齢とAMRの関係、2023年から国家資格者が生まれる愛玩動物看護師の役割、地球規模で最も危惧されている、過剰に抗菌薬を含んだ下水を魚たちが体内に取り込んでしまう問題など、一つひとつ丁寧に回答されている姿が印象的であった。
 最後に「小動物の話を通して、感染症問題の全体像を感じることができるセミナーであった」とHGPI代表理事の黒川氏が、本セミナーの印象を語った。

日本医療政策機構の詳細及び当日のセミナー概要は以下URLからも閲覧可能。
https://hgpi.org/
https://hgpi.org/events/hs109-1.html


講演中の村田佳輝先生。オンラインセミナーの一画面

日本獣医輸血研究会第7回学術講習会および第1回JSVTM認定輸血コーディネーター認定試験 実施される

12月4日、対面による日本獣医輸血研究会第7回学術講習会が東京農工大学で開催された(ハイブリッド形式であり、配信は1月8日まで視聴可能)。

 また、昨年度から告知されていたとおり、第1回「JSVTM(日本獣医輸血研究会)認定輸血コーディネーター認定試験」も同日実施され、過去6回にわたる学術講習会で知見を積んだ獣医師と動物看護師が試験に臨んだ。受験者からは、「やや悩む内容だった」「勉強してきた成果があればよいが」といった声がきかれた。

 学術講習会では、同研究会会長・内田恵子先生によるご挨拶に続き、JSVTM認定輸血コーディネーターの認定プログラムである2つのセミナー「輸血適応疾患と限界」(井手香織先生、東京農工大学)、「血液製剤の投与方法」(仙波惠張先生、日本動物医療センター)が実施された。

 いずれの講義でも「輸血はあくまで対症療法である」「副反応を伴うリスクがある」「実効性のある輸血を行うべき」という点が強調されていたことが印象的であった。

 森下啓太郎先生(北海道大学)による「ジャーナルクラブ」のテーマは、「異種間輸血」について(発表の冒頭、先生ご自身は異種間輸血を推奨する立場でも否定する立場でもないことを表明された)。

現代では考えづらいが、1800年代までは動物から人への輸血が横行し、その後、血液型や自然抗体などの研究がすすんだことで動物から人への輸血は禁止された歴史があること、また、1960年代からは犬から猫への異種間輸血がされはじめ、現代のヨーロッパにおいても犬から猫への輸血が行われていることなど、異種間輸血の歴史を振り返る興味深い内容であった。

 同セミナーの主題は、臨床現場における猫のドナーの確保の難しさと、重篤な状態にある猫の患者に対する輸血をどのように考えるか、というもの。日々の診療のなかで多くの先生が直面する可能性のある難しいテーマを改めて考える機会となったのではないかと思われる。

 講習会は、輸血合併症をテーマにした症例検討会で幕を閉じた。配信とのハイブリッドとはいえ、2020年以来、2年ぶりの対面による学術講習会は、画面の向こうで淡々とすすむのではなく、セミナー参加者と登壇者の先生方が生み出す、張り詰めたり和んだりする雰囲気のなかですすんでいった。そのような会場の雰囲気を味わうこともまた、学術講習会に参加する楽しみであることを思い出した1日であった。

日本獣医輸血研究会HP https://www.jsvtm.org/

セミナー「輸血適応疾患と限界」(井手香織先生)の様子

森下啓太郎先生による「ジャーナルクラブ」の様子

日本臨床獣医学フォーラム 第24回年次大会 2022 オンライン 終了

 昨年度に続きオンライン開催となった、日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)の年次大会(開催:2022年 9月22日 ~12月9日)。今回は、「世代間、各地域、現在と未来、獣医療スタッフとご家族、人・動物・環境など、JBVPがテーマにしてきた様々なつながりをもう一度意識したい」(日本臨床獣医学フォーラム 年次大会実行委員長・山岸建太郎先生)との思いから、「CONNECT」をテーマに、前期・後期合わせてじつに185セミナーが用意された(Web LSアーカイブ、2021年年次大会、2022年WJVF再配信も含む)。

 同学会の恒例となった、登録のみで誰でも無料で視聴できる「一般(ご家族)プログラム」をはじめ、新企画「一般ショートプログラム」では、「肛門嚢のお手入れ」「お薬の飲ませ方」「ご飯を嫌がる犬猫への工夫」といった、知っていることで動物とご家族がハッピーになれる内容も盛りだくさんで、獣医療関係者だけでなく、動物とその家族にも貴重な機会となったと思われる。

 また、登壇者と参加者が対面でディスカッションする様子を収録した新企画「リアルセミナー収録」も用意された。竹村直行先生(日本臨床獣医学フォーラム会長、日本獣医生命科学大学)と学生が実際の症例について検討する「竹村研究室の心電図ゼミ 2022」、小笠原聖悟先生(アイデックス ラボラトリーズ(株))が1年目の若手獣医師をあつめディスカッションする「Dr.小笠原の臨床病理ラウンドテーブルディスカッション」はいずれも、視聴者も一緒にその場に参加しているような臨場感をおぼえる内容であった。オンラインでありながら、参加する楽しみを実感できるこうした新しい試みも本学会の魅力といえる。

 加えて、来年2月に行われる愛玩動物看護師国家試験の受験対策としても見ておきたい動物看護師向けプログラムでは、「感染症学」「麻酔・疼痛管理学」「血液病学」など、ますます幅広い内容が用意された。

 オンライン開催となって久しく、その手軽さから、学会に参加するハードルが下がったいっぽうで、学会に参加してこそ得られる満足感は感じづらくなっているのではないかと想像する。それでもなお、新たな試みで参加者の知的好奇心を刺激するこうした学会こそが、仕事以外の場で誰かの話を真剣にきいたり、なにかについて考え討論する楽しみを提供してくれていると感じた参加者は多かったのではないだろうか。

日本臨床獣医学フォーラムHP https://www.jbvp.org/

「Dr.小笠原の臨床病理ラウンドテーブルディスカッション」の様子

一般ショートプログラム「お薬の飲ませ方:猫編」の様子


東京農工大学 小金井動物救急医療センター 開所

 (大)東京農工大学は、既存の府中キャンパス内の農学部附属動物医療センターに加え、2022年11月28日(月)に小金井キャンパス内に小金井動物救急医療センター(東京・小金井市)を新規開設。それに先駆け同年11月24日(木)に開所式が行われた。
 「1つの大学で2つの動物医療病院を設置するのは、全国で初となる」と学長の千葉一裕先生。また既存の附属動物医療センターでは「腫瘍科」「整形外科」「動物行動科」「内科」「軟部外科」「循環器科」「皮膚科」「放射線科」「臨床繁殖科」の専門医療を、この度新設の当センターでは「総合診療科(救急も対応)」「放射線治療科」の診療を実施する。互いに連携し、2次診療の一層の充実を図る。これらを統括するため「動物病院機構」が設立され、機構長は当センター長の千年 篤先生が兼務することとなった。
 当センターは2フロアで構成され、1階は6つの診察室、内視鏡検査室や歯科処置室や、X線検査室、CT検査室、MRI検査室、超音波検査室、感染入院室2つを備える。2階は3つの手術室、犬猫用にそれぞれ独立した入院室・ICU、大型犬入院室がある。
 また3階にはディープテックイノベーションスペースとしてラボオフィスも整備されている。この環境をいかし、当大学の工学研究院との連携、獣医・工連携を含む農工学融合をベースとした共同研究を実施する。当センターでの診療を基盤とした研究を推進するという。
 当センターは11月28日(月)からスタートするが、「放射線治療科」は、放射線治療棟の増築・治療機の導入後に稼働。放射線治療開始は2024年夏~秋を予定している。
 また、府中の既存の附属動物医療センターと、この度新設の当センターは、いずれも2次診療機関としての位置づけで、受診はかかりつけ動物病院(1次診療機関)からの紹介のみに限定される。ただし当センターでは、救急に限り、飼い主からの直接の連絡にも対応。スタッフの増員を図り2023年度には夜間対応を行う予定。将来的に夜間の獣医療の空白時間をつくらない体制整備に努める。
 問い合わせは以下より。
TEL042-388-7474(小金井動物救急医療センター受付)
※受付時間は当面のあいだは9:30~16:00

 

新設された小金井動物救急医療センター外観

開所式でのテープカット

第43回動物臨床医学会年次大会 開催される

 2022年11月19日(土)、20日(日)、大阪国際会議場グランキューブ大阪にて、第43回動物臨床医学会年次大会が開催された。新型コロナウイルス蔓延防止のため、2020年、2021年はオンラインでの開催となったが、本大会は感染対策を施したうえで3年ぶりの対面式での開催となった。

 以前と比べて開催日が1日短くなり、規模は縮小されたが、分科会ごとのセミナー、パネルディスカッション、特別講演など盛りだくさんで、症例検討、一般口演、ランチョンセミナーのほか、小動物臨床血液研究会、小動物臨床栄養学研究会および動物のいたみ研究会の講演、動物病院スタッフセミナー、ポスターセッションなど、その内容は充実していた。講演も立ち見が出るほど盛況なものもみられ、講師と参加者の間で活発な意見の交換があった。

 久しぶりの大きな対面式の学会で、あちこちで参加者同士の再会を喜ぶ声がきこえた。また、出展者にとっても、製品に興味をもった獣医師の先生方と直に話せる機会となり、対面式での開催は待ちわびたものであった。

 対面式のみの開催に際し、理事長の山根義久先生は、「確かにオンライン学会は、経費や時間が短縮し、大変合理的のようにみえるが、何かしらさみしい気持ちになったのは私一人ではないと思う。やはり、人生何事も合理的ばかりがよいとは限らない。」と述べた。

 本大会の参加者総数は、1,561名(獣医師900名、動物病院スタッフ158名、学生130名、企業関係者373名)、協力企業数は112社であった。成功裏に終わった本大会は他の学会が対面式になる道しるべになると思われる。

 次回、第44回年次大会は令和5年11月18日(土)、19日(日)に同会場にて開催予定である。

歓迎交流会で挨拶をする山根義久先生

講演会の様子

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