小動物臨床総合誌 MVM(エムブイエム)、小動物腫瘍臨床 Joncol(ジョンコル)、獣医眼科プラクティス、動物看護コアテキスト 発行-ファームプレス

学会・セミナーレポート

日本獣医輸血研究会第7回学術講習会および第1回JSVTM認定輸血コーディネーター認定試験 実施される

12月4日、対面による日本獣医輸血研究会第7回学術講習会が東京農工大学で開催された(ハイブリッド形式であり、配信は1月8日まで視聴可能)。

 また、昨年度から告知されていたとおり、第1回「JSVTM(日本獣医輸血研究会)認定輸血コーディネーター認定試験」も同日実施され、過去6回にわたる学術講習会で知見を積んだ獣医師と動物看護師が試験に臨んだ。受験者からは、「やや悩む内容だった」「勉強してきた成果があればよいが」といった声がきかれた。

 学術講習会では、同研究会会長・内田恵子先生によるご挨拶に続き、JSVTM認定輸血コーディネーターの認定プログラムである2つのセミナー「輸血適応疾患と限界」(井手香織先生、東京農工大学)、「血液製剤の投与方法」(仙波惠張先生、日本動物医療センター)が実施された。

 いずれの講義でも「輸血はあくまで対症療法である」「副反応を伴うリスクがある」「実効性のある輸血を行うべき」という点が強調されていたことが印象的であった。

 森下啓太郎先生(北海道大学)による「ジャーナルクラブ」のテーマは、「異種間輸血」について(発表の冒頭、先生ご自身は異種間輸血を推奨する立場でも否定する立場でもないことを表明された)。

現代では考えづらいが、1800年代までは動物から人への輸血が横行し、その後、血液型や自然抗体などの研究がすすんだことで動物から人への輸血は禁止された歴史があること、また、1960年代からは犬から猫への異種間輸血がされはじめ、現代のヨーロッパにおいても犬から猫への輸血が行われていることなど、異種間輸血の歴史を振り返る興味深い内容であった。

 同セミナーの主題は、臨床現場における猫のドナーの確保の難しさと、重篤な状態にある猫の患者に対する輸血をどのように考えるか、というもの。日々の診療のなかで多くの先生が直面する可能性のある難しいテーマを改めて考える機会となったのではないかと思われる。

 講習会は、輸血合併症をテーマにした症例検討会で幕を閉じた。配信とのハイブリッドとはいえ、2020年以来、2年ぶりの対面による学術講習会は、画面の向こうで淡々とすすむのではなく、セミナー参加者と登壇者の先生方が生み出す、張り詰めたり和んだりする雰囲気のなかですすんでいった。そのような会場の雰囲気を味わうこともまた、学術講習会に参加する楽しみであることを思い出した1日であった。

日本獣医輸血研究会HP https://www.jsvtm.org/

セミナー「輸血適応疾患と限界」(井手香織先生)の様子

森下啓太郎先生による「ジャーナルクラブ」の様子

日本臨床獣医学フォーラム 第24回年次大会 2022 オンライン 終了

 昨年度に続きオンライン開催となった、日本臨床獣医学フォーラム(JBVP)の年次大会(開催:2022年 9月22日 ~12月9日)。今回は、「世代間、各地域、現在と未来、獣医療スタッフとご家族、人・動物・環境など、JBVPがテーマにしてきた様々なつながりをもう一度意識したい」(日本臨床獣医学フォーラム 年次大会実行委員長・山岸建太郎先生)との思いから、「CONNECT」をテーマに、前期・後期合わせてじつに185セミナーが用意された(Web LSアーカイブ、2021年年次大会、2022年WJVF再配信も含む)。

 同学会の恒例となった、登録のみで誰でも無料で視聴できる「一般(ご家族)プログラム」をはじめ、新企画「一般ショートプログラム」では、「肛門嚢のお手入れ」「お薬の飲ませ方」「ご飯を嫌がる犬猫への工夫」といった、知っていることで動物とご家族がハッピーになれる内容も盛りだくさんで、獣医療関係者だけでなく、動物とその家族にも貴重な機会となったと思われる。

 また、登壇者と参加者が対面でディスカッションする様子を収録した新企画「リアルセミナー収録」も用意された。竹村直行先生(日本臨床獣医学フォーラム会長、日本獣医生命科学大学)と学生が実際の症例について検討する「竹村研究室の心電図ゼミ 2022」、小笠原聖悟先生(アイデックス ラボラトリーズ(株))が1年目の若手獣医師をあつめディスカッションする「Dr.小笠原の臨床病理ラウンドテーブルディスカッション」はいずれも、視聴者も一緒にその場に参加しているような臨場感をおぼえる内容であった。オンラインでありながら、参加する楽しみを実感できるこうした新しい試みも本学会の魅力といえる。

 加えて、来年2月に行われる愛玩動物看護師国家試験の受験対策としても見ておきたい動物看護師向けプログラムでは、「感染症学」「麻酔・疼痛管理学」「血液病学」など、ますます幅広い内容が用意された。

 オンライン開催となって久しく、その手軽さから、学会に参加するハードルが下がったいっぽうで、学会に参加してこそ得られる満足感は感じづらくなっているのではないかと想像する。それでもなお、新たな試みで参加者の知的好奇心を刺激するこうした学会こそが、仕事以外の場で誰かの話を真剣にきいたり、なにかについて考え討論する楽しみを提供してくれていると感じた参加者は多かったのではないだろうか。

日本臨床獣医学フォーラムHP https://www.jbvp.org/

「Dr.小笠原の臨床病理ラウンドテーブルディスカッション」の様子

一般ショートプログラム「お薬の飲ませ方:猫編」の様子


東京農工大学 小金井動物救急医療センター 開所

 (大)東京農工大学は、既存の府中キャンパス内の農学部附属動物医療センターに加え、2022年11月28日(月)に小金井キャンパス内に小金井動物救急医療センター(東京・小金井市)を新規開設。それに先駆け同年11月24日(木)に開所式が行われた。
 「1つの大学で2つの動物医療病院を設置するのは、全国で初となる」と学長の千葉一裕先生。また既存の附属動物医療センターでは「腫瘍科」「整形外科」「動物行動科」「内科」「軟部外科」「循環器科」「皮膚科」「放射線科」「臨床繁殖科」の専門医療を、この度新設の当センターでは「総合診療科(救急も対応)」「放射線治療科」の診療を実施する。互いに連携し、2次診療の一層の充実を図る。これらを統括するため「動物病院機構」が設立され、機構長は当センター長の千年 篤先生が兼務することとなった。
 当センターは2フロアで構成され、1階は6つの診察室、内視鏡検査室や歯科処置室や、X線検査室、CT検査室、MRI検査室、超音波検査室、感染入院室2つを備える。2階は3つの手術室、犬猫用にそれぞれ独立した入院室・ICU、大型犬入院室がある。
 また3階にはディープテックイノベーションスペースとしてラボオフィスも整備されている。この環境をいかし、当大学の工学研究院との連携、獣医・工連携を含む農工学融合をベースとした共同研究を実施する。当センターでの診療を基盤とした研究を推進するという。
 当センターは11月28日(月)からスタートするが、「放射線治療科」は、放射線治療棟の増築・治療機の導入後に稼働。放射線治療開始は2024年夏~秋を予定している。
 また、府中の既存の附属動物医療センターと、この度新設の当センターは、いずれも2次診療機関としての位置づけで、受診はかかりつけ動物病院(1次診療機関)からの紹介のみに限定される。ただし当センターでは、救急に限り、飼い主からの直接の連絡にも対応。スタッフの増員を図り2023年度には夜間対応を行う予定。将来的に夜間の獣医療の空白時間をつくらない体制整備に努める。
 問い合わせは以下より。
TEL042-388-7474(小金井動物救急医療センター受付)
※受付時間は当面のあいだは9:30~16:00

 

新設された小金井動物救急医療センター外観

開所式でのテープカット