小動物臨床総合誌 MVM(エムブイエム)、小動物腫瘍臨床 Joncol(ジョンコル)、獣医眼科プラクティス、動物看護コアテキスト 発行-ファームプレス

学会・セミナーレポート

第27回 日本獣医がん学会開催される

 2023年1月28日(土)と29日(日)、ホテルニューオータニ大阪において第27回日本獣医がん学会が開催された。さらに両日の様子は、2月7日(火)~2月28日(火)にわたり、VETSCOPE(http://vetscope.vet/)においてオンライン録画配信された。
 会場展示11社、ランチョンセミナー協賛2社、講演要旨集広告協力6社、オンライン協力・動画CM協力2社による協賛があり、会場参加者は430名、オンラインも含めた総参加者は約900名であった。昨年夏の東京会場開催から会場参加者も増加し、感染症対策を施しながら本格的に再始動した印象の大会となった。
 会場では、獣医師と医師がそれぞれの立場から「がん終末期のケア」をテーマに講演と総合討論を行った。また、「外科シンポジウム」でも獣医師と医師によって「頭頸部腫瘍切除後の再建外科」が講演された。そのほか、「総合教育講演」、「教育講演」、「一般口演/臨床研究・症例報告」に加え、「トピック:Veterinary Cancer Society アップデート2022」では獣医腫瘍学のホットトピックが解説・紹介され、会場参加型企画「続・仮説演繹法を用いた診断ステップ」も昨年夏に引き続いて実施された。このように充実したプログラム各会場では、参加者の熱心な意見交換がみられた。

メインシンポジウム総合討論の会場の様子

第12回 動物看護大会

 第12回となる(一社)日本動物看護職協会主催「動物看護大会」が2022年12月12日〜2023年1月8日(当初の終了日2022年12月25日から好評につき延長された)、昨年同様オンラインにて開催された。今回は、愛玩動物看護師国家試験直前のタイミングということから、「愛玩動物看護師 国家資格取得後の未来」をテーマに、国家試験対策に重きを置いたセミナーが多数用意された。

 動物看護師という職業の歴史を振り返る「イギリス・アメリカ・日本の動物看護の歴史から見る愛玩動物看護師」(山川伊津子先生、ヤマザキ動物看護専門職短期大学)をはじめ、動物看護師の資格制度の先進国であるアメリカと日本の現状を比較し、愛玩動物看護師がどのような資格へと発展していくべきかを考える「ケアの質、やり甲斐、利益の交差点:愛玩動物看護師をどう活用するべきか?」(Kenichiro Yagi氏、獣医療救急グループ主任動物看護師兼RECOVERプログラムディレクター)は、改めて今、獣医療関係者が当事者としてみるべき内容ではないかと思われた。

 国家試験対策として「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」(西村裕子先生、千葉科学大学 動物危機管理教育研究センター)、「統一認定試験徹底分析 そこから読み解く国試攻略法」(鈴木 勝先生、獣医師国家試験対策研究会代表)といったセミナーでは、どのように試験対策を練るべきかや、効率のよい勉強法が具体的に示され、試験勉強に苦慮する受験生への力強いエールとなったと思われる。

 また、座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」では、Yagi氏、末松正弘先生(AMC末松動物病院院長)、横田淳子日本動物看護職協会会長、中村陽子同副会長が、それぞれの立場から描く愛玩動物看護師の目指すべき姿や目標を語る、熱のこもった内容であった。なかでも、Yagi氏の「動物看護師は離職率が高い。離職させないためには、周囲から評価を得てモチベーションを維持する必要がある」「そうした点も含めて獣医師にリーダーシップを求めたい」といった言葉は、今後、愛玩動物看護師が活躍するうえで重要なポイントとなっていくのではないだろうか。また、末松先生からは、「愛玩動物看護師が誕生したあとの継続的な支援、待遇をどのようにすすめるかを考える必要がある」といった、獣医師、動物病院の経営者の立場からのお話も伺うことができた。

 愛玩動物看護師の誕生は、当事者である愛玩動物看護師を目指す者だけでなく、すべての動物医療関係者に大きくかかわる出来事でありながらも、これまでは、どのように具体的にかかわるかについてはっきり語られてこなかったのではないかと思われる。同大会のような場を通して、さまざまな立場で愛玩動物看護師という新しい職業について考え、討論することが愛玩動物看護師、ひいてはこれからの獣医療をつくっていくことにつながるのではないだろうか。

(一社)日本動物看護職協会HP https://www.jvna.or.jp/

座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」の様子



西村裕子先生「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」の様子

第109回HGPIセミナー「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える」開催

 12月9日(金)、日本医療政策機構(HGPI:Health and Global Policy Institute、代表理事、黒川 清氏)による、第109回HGPIセミナーがオンラインにて開催された。
 本機構は非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクとして2004年に設立された。設立以来、中立的かつグローバルなシンクタンクとして、市民主体の医療政策を実現すべく、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供している。

 109回を迎えるこの度のセミナーは「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える-薬剤耐性の現状と対策・伴侶動物と新興感染症」をテーマにオンラインで配信。薬剤耐性(AMR)への対策について、村田佳輝先生(むらた動物病院、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター、獣医臨床感染症研究会(VICA))が登壇し、「1.One Healthの知識/人獣共通感染症とその対策」「2.小動物臨床での抗菌薬使用状況」「3.小動物臨床での分離菌」「4.小動物臨床での薬剤耐性菌の現状」「5.薬剤耐性(AMR)対策と獣医臨床感染症研究会(VICA)」の5つの項目にわけて詳細に解説。
セミナーでは咬傷感染症やレプトスピラ症、SFTS、Q熱、ブルセラ症といった人獣共通感染症での症例ごとの感染防御方法や、耐性菌の出現要因として抗菌薬の過剰使用や誤用について、獣医師の立場から解説。愛玩動物での抗菌薬販売量や尿培養分離菌種別の薬剤耐性率といった内容が、ご自身の動物病院や、会長を務める「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の過去データや症例をまじえ、詳細にかつわかりやすく紹介された。
 小動物臨床において薬剤耐性菌は増加傾向にあること、抗菌薬の慎重使用の徹底、抗菌薬使用量の調査継続の重要性、また2013年に臨床獣医師の有志により立ち上げられた「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の活動内容も紹介された。同会の動物病院の単位であるもののアンチバイオグラム(薬剤感受性率)の利用で広域抗菌薬の慎重使用による耐性菌の減少が数値で示され、その結果、アンチバイオグラムの効果的な利用により耐性菌減少が可能であることが証明されたという報告がなされた。

 本セミナーは獣医師の他、幅広い職種の、そして広い年齢層の聴講者が参加し、最後の質疑応答では、獣医療以外の多角的な視点からも質問が多数よせられた。村田先生が獣医師の立場から、新型コロナウイルスとの関連、動物-ヒトへの感染、体重や年齢とAMRの関係、2023年から国家資格者が生まれる愛玩動物看護師の役割、地球規模で最も危惧されている、過剰に抗菌薬を含んだ下水を魚たちが体内に取り込んでしまう問題など、一つひとつ丁寧に回答されている姿が印象的であった。
 最後に「小動物の話を通して、感染症問題の全体像を感じることができるセミナーであった」とHGPI代表理事の黒川氏が、本セミナーの印象を語った。

日本医療政策機構の詳細及び当日のセミナー概要は以下URLからも閲覧可能。
https://hgpi.org/
https://hgpi.org/events/hs109-1.html


講演中の村田佳輝先生。オンラインセミナーの一画面