小動物臨床総合誌 MVM(エムブイエム)、小動物腫瘍臨床 Joncol(ジョンコル)、獣医眼科プラクティス、動物看護コアテキスト 発行-ファームプレス

学会・セミナーレポート

第26回日本獣医皮膚科学会学術大会・総会 開催される

 2023年3月12日(日)、国際ファッションセンタービル KFCホール(東京・墨田区)にて第26回日本獣医皮膚科学会学術大会・総会が開催された。
 本大会はメインテーマを「猫アトピー症候群/猫の皮膚科のup date」とし、様々な先生方が登壇、皮膚科の診療・治療方法の情報をアップデートしようと、多くの先生方が来場した。
 メイン会場を二会場用意し、招聘講演、科学講演、ランチョンセミナー、シンポジウム、一般講演、ポスターセッションなど、多くの発表が行われた。企業も約20社が展示出展し、企業担当者と参加者の間でも様々なやりとりがくり広げられた。
 また、スライドや写真、動画を用いた通常スタイルの講演もさることながら、ポスター展示前で行われたポスターセッションも、階下への移動が生じるにもかかわらず、ブース内を歩くのもままならないほどの大盛況となっていた。展示者と閲覧者が多くの質疑応答や意見交換を行い、まさに皮膚科のアップデートがなされている場となっていた。
 日本獣医皮膚科学会主催のもうひとつの姿である、「臨床」に重きをおいた「ひふゼミ」は本年秋に大阪にて開催が決定している。
 なお、今大会は同学会HPでのアーカイブ配信を予定している。
 期間:2023年3月20日(月)10:00〜2023年4月20日(木)17:00
 

ポスターセッションの様子

全国5会場対面形式+オンラインプログラム 日本臨床獣医学フォーラム地区大会2023 開催される

 2023年3月の約1ヵ月にわたり、全国5会場にて日本臨床獣医学フォーラム地区大会2023が開催された。COVID-19感染症の影響により近年オンライン開催が行われていた本大会も2023年は対面形式での開催となり、3月5日(日)の京都・東北(仙台)を皮切りに、19日(日)の九州(福岡)、26日(日)の北海道(札幌)・名古屋にてそれぞれ実施された。
 内容については各会場ともに獣医師継続教育プログラム、愛玩動物看護師およびアニマルケアスタッフ(ACS)セミナー、獣医師および愛玩動物看護師、アニマルケアスタッフ対象のランチョンセミナーなどが行われた。各会場ともに著名な先生が講師として登壇、また展示企業も多く参加し、セミナーの合間には展示会場も多くの参加者でにぎわった。
 なお、本大会の新しい試みとして、1会場の申込で最大3会場の参加が可能であった。ある参加者は別の会場で申し込んだが、ちょうど家族旅行で近くにいたので1コマだけ聴講しにきたとのこと。これも全国で展開する本大会ならではのシステムといえよう。

参加者数は以下の通り(JBVP正式発表より)
 京都  獣医師  50名、動物看護職者  22名、その他23名
 東北  獣医師 165名、動物看護職者 195名、その他143名
 九州  獣医師 152名、動物看護職者 133名、その他133名
 北海道 獣医師 112名、動物看護職者 113名、その他76名
 名古屋 獣医師  86名、動物看護職者  29名、その他73名

 JBVP会長の竹村直行先生は「オンラインはもちろん有用ではあるが、対面の臨場感や緊張感を味わいながらの学習はとても有意義なものであると考えている。臨床現場での知識やスキルの向上につなげてほしい」とのこと。
 翌月4月1日(土)~6月30日(金)には、本大会の一環としてオンライン合同地区大会が開催。「消化器祭り」と題し、5会場でのプログラムとは別に、新たに23の消化器プログラム、計25のプログラムを配信。オンラインと会場開催をそれぞれ独立して実施することで、より多くの方の学習機会を提供しようとする意気込みが感じられる。
 本年7月の大阪でのWJVF、9月の東京でのJBVP年次大会は会場開催のみとのことであり、COVID-19感染症の影響前の状況にすぐに戻ることは難しいかもしれないが、それでも本会の2023年における地区大会の会場開催はターニングポイントとして大きな一歩であったと感じる。不可逆的に変化した卒後教育の在り方をリードしていく本会の動向がこれからも気になるところである。

開会の辞を述べるJBVP会長の竹村直行先生


京都地区大会


東北地区大会


九州地区大会


北海道地区大会



名古屋地区大会

第19回日本獣医内科学アカデミー学術大会 開催

 2023年2月26日(日)、東京国際フォーラム(東京都)にて、(一社)日本獣医内科学アカデミー(JCVIM)による第19回日本獣医内科学アカデミー学術大会(JCVIM2023)が開催された。
 COVID-19の影響により2020年2月第16回学術大会以降、2021年2022年はオンライン開催であったが、今大会から症例検討・研究発表に限定し対面開催にて実施した。

 当日の発表内容では、腫瘍、血液・免疫学、栄養学、皮膚科学、行動学、循環器、消化器、画像診断、呼吸器、眼科と多分野にわたり、朝10:30~夕方18:30まで、150名を超える参加者が集い、思い思いの発表に足を運んだ。「実際に演者を前に聴講できたことは感慨深かった」「質疑応答を重ねるうちに会場が熱気に溢れていった」と、参加者たちが対面開催の感想を述べているのが印象的であった。発表内容は後日オンデマンドでも配信予定。

 発表のなかからJCVIM Award受賞者も決定された。研究Awardを木村和人先生(大阪公立大学)の「輸血への応用に向けた赤芽球由来イヌiPS細胞の作製と赤血球への分化誘導」と西堀翔真先生(山口大学)の「ネコPD-1/PD-L1の結合を阻害する抗ネコPD-1キメラ抗体の開発」、弊社ファームプレスも協賛した症例検討Awardを山口敬央先生(北海道大学附属動物病院)の「新規遺伝子変異を同定した猫の肥大型筋ジストロフィーの1例」と、宮城沙妃先生(北海道大学附属動物病院)の「頭部MRI検査のT2*強調画像低信号病変が石灰化転移病変と診断された犬の1例」、臨床研究Awardを太田茉耶先生(岐阜大学応用生物科学部附属動物病院)の「犬の歯肉に発生した扁平上皮癌に対する加速分割照射の有効性と有害事象の検討」と谷口哲也先生(日本獣医生命科学大学/兵庫ペット医療センター東灘病院)の「犬の呼吸器疾患451頭における解剖学的部位と臨床徴候の関連性について」が受賞した。
 
 また症例検討・研究発表以外の、共催団体企画や検定講習会、企業主催プログラム、そして130題以上にのぼる教育講演は、2月17日(金)~3月21日(火)までオンラインで開催。
 詳細は以下より。
https://www.jcvim.org/

 今回の展示ブースは弊社を含め4出展のみであったが、次回2024年第20回は、同会場にて本格的な対面学会が予定されており、以前のような大規模な展示も予定されている。


会場の様子


参加者は目当ての発表会場へ向かう

第4回 ヒトと伴侶動物の比較医学研究会 開催される

 2023年3月1日、東京農工大学140周年記念会館において、第4回 ヒトと伴侶動物の比較医学研究会(会長:東京医科大学教授/落谷孝広先生)が開催された。同研究会は2017年に発足したが、途中、COVID-19の感染拡大の影響もあって2019年6月に国立がん研究センターにおける第3回以来の開催となった。
 同研究会は基本理念として追求する「ヒト医療と獣医療との連携」から、「ヒト・伴侶動物の疾患に共通するエレメントから、新たな診断・治療法を創造し、生命科学の発展に寄与することを目標」としている。今回のテーマは癌撲滅にフォーカスした「血中マイクロRNAによるがん撲滅への新たな歩み」であり、異なる分野の最前線で活躍する獣医師、医師らによって講演された。
 伴侶動物である犬の骨肉腫はヒトと疫学や病態など発症形態が類似しており、発現しているマイクロRNAの塩基配列までもが同様であることからヒト骨肉腫の自然発がんによる治療モデルとして有用とされている。このような共通事項からも分野を越えた協力体制による生命科学の発展を目指し、会場には、獣医師、医師、薬剤師、血中マイクロRNAを研究中の学生、関連企業などから約100名が参加した。各講演後にはそれぞれの立場や見方・考え方から活発なディスカッションが交わされていたことからも、今後の展望に寄せる期待の大きさがうかがわれた。
 また新会長に水野拓也先生(山口大学共同獣医学部獣医臨床病理学分野教授)、副会長には岐阜大の森 崇先生(岐阜大学応用生物科学部共同獣医学科臨床獣医学講座/獣医分子病態学研究室教授)が就任された。
問い合わせ:株式会社メディカル・アーク info@medical-ark.com

<当日のプログラムは以下の通り>
【基調講演】
「ヒトと伴侶動物における医療の絆」伊藤 博先生(東京農工大学名誉教授)、
「Exosomes in Companion Animals: An Innovative Approach to Treat Pre-Disease」落谷孝広先生(東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療研究部門教授)
【ランチョンセミナー】
「エクソソーム オーケストラ ビジョン」西平 隆氏(Exo Earth株式会社)
【特別講演】
「犬自然発がんモデルにおけるmicroRNA網羅解析の臨床応用とトランスレーショナル研究」池田凡子先生(株式会社メディカル・アーク)、
「dPCRを用いたイヌの血中マイクロRNAによるがんの検出」Dr. PRIYANTHI MANGALII(株式会社アニマルステムセル)(株式会社メディカル・アーク出向)
「犬のがん診療におけるmicroRNA研究―岐阜大学における戦略と現状」森 崇先生、
「ヒト泌尿器癌、特に前立腺癌におけるエクソソーム・マイクロRNA研究と社会実装~泌尿器科医から見る課題と展望~」田村貴明先生(千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学/東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療研究部門助教)、
「動脈硬化性疾患と血中細胞外小胞miRNAの研究」栗山直也先生(旭川医科大学外科学講座血管・呼吸・腫瘍病態外科学分野/東京医科大学医学総合研究所分子細胞治療研究部門)、
「MCED(多がん早期検出)検査による新時代の幕開け」松﨑潤太郎先生(慶應義塾大学薬学部薬物治療学講座准教授)、
「アカデミアと企業との“知”の連携」吉田 大氏(野村貿易株式会社)

会場の様子

第13回 COSDーworkshop 開催される

 2023年2月22日(水)、23日(木・祝)の2日間にわたり、静岡県・下田東急ホテルにて、第13回 COSD(Comparative Ocular Surface Diseases)–workshopが開催された。本セミナーは2014年からはじまった眼表面疾患に特化した学術交流会であり、これまで日本国内では主に北海道・ニセコなどで開催されてきたが、今回約3年振りの開催地として、太平洋が見渡せる伊豆・下田にて行われた。2日間のうち、初日のセミナーを取材したので、その概要を報告する。
 第13回のテーマは「COSDWへの回顧と展望」と題し、これまで計12回にわたって行われた過去のテーマとそのディスカッションの内容をとり上げ、とくに犬猫の量的および質的な涙液の低下について、これまで発表および議論してきたものを振り返るというものであった。
 両日にわたるメインスピーカーは、堀 裕一先生(東邦大学)、David J. Maggs先生(UCデイビス)、齋藤陽彦先生(トライアングル動物眼科診療室)、Brian C. Leonard先生(UCデイビス、リモートによる講演)、Lionel Sebbag先生(ヘブライ大学、リモートによる講演)、岩下紘子先生(トライアングル動物眼科診療室)が務められた。そのほか一般口演、ディスカッションが行われた。
 今回にて本会の幹事がBrian C. Leonard先生、Lionel Sebbag先生、岩下紘子先生にバトンタッチとなったが、主催者である齋藤陽彦先生は、「約3年振りの開催で、今回は急きょ準備したこともあって関東から近く、それでいて少し非日常が味わえる伊豆という場所を選んだ。また、海外のゲストがリモートでの参加だったため今回はハイブリットでの開催となった。今後国内での開催と海外での開催になると思われるが、国内開催の際には対面でDeepなDiscussionができる機会となることを希望している。」とのこと。今回、日本全国からも先生方が参加され、すべて英語の講演による最新知見に久しぶりの刺激を得られたと思われる。余談であるが、会場近くにある了仙寺は黒船襲来時の開国に深く関係する場所であり、それから150年以上経過した今、海外の先生方と日本の先生方が議論を重ねる風景は感慨深いものであると感じた。

会場の様子

(公社)東京都獣医師会 ワンヘルス講演会を開催

 2023年1月22日(日)、都市センターホテル(東京都)にて、(公社)東京都獣医師会主催によるワンヘルス講演会「福岡県におけるワンヘルスの取組みと期待」が草場治雄先生(〈公社〉福岡県獣医師会 会長)を迎え開催された。

 日本で「ワンヘルス〈One Health〉」という概念を大きく牽引してきた福岡県獣医師会。本講演では「アジアの玄関口」としての歴史、福岡出身の免疫学者で狂犬病ワクチンの開発に大きく貢献された獣医師の梅野信吉先生の話題にもふれる他、2016年の「第2回 世界獣医師会・世界医師会 ワンヘルスに関する国際会議」(福岡県)での「福岡宣言」の発布や昨年(2022年)7月に「FAVA One Health Fukuoka Office」が設立されたこと、同年11月の「第21回アジア獣医師会連合(FAVA)福岡大会」では大会最終日に「アジアワンヘルス福岡宣言2022」が採択されたことなど、活動内容を紹介された。
さらに「〈アジアワンヘルス福岡宣言2022〉では、1.人と動物の共通感染症の予防とまん延防止、2.薬剤耐性菌への対策のさらなる推進、3.生物多様性の維持や地球規模の保護、4.獣医学教育の更なる整備と国際連携、5.医療機関や行政、市民団体、大学、国際機構等との連携によるワンヘルスの推進、6.ワンヘルス研究や教育のためFAVA活動の拠点と整備の強化が謳われた」と宣言の内容も紹介され、会場は「ワンヘルス」という概念への理解を深めた。

 福岡県ではワンヘルス条例の施行により、「保険環境研究所」と「動物保健衛生所(仮称)」が相互に連携した「ワンヘルスセンター」がみやま市に整備され、愛玩動物、野生動物、産業動物などを一元的に対応している。

 講演後の質疑応答では、「今後〈ワンヘルス〉を学問として確立していくうえで、大学教育へ如何に取り込んでいけばよいか」などネクストアクションにむけての具体的な質問が寄せられ、草場先生が一つひとつ丁寧に誠実に答えられていく姿が、印象的であった。


草場治雄先生(〈公社〉福岡県獣医師会 会長)。
ワンヘルスの概念を広めるため、今後は教育活動が重要という


上野弘道先生(〈公社〉東京都獣医師会 会長)。
馬医からはじまり産業動物・小動物の獣医師というように
時代のニーズとともに獣医師の役割も変化してきました。
「ワンヘルス」という概念も念頭に務めることも、
新しい獣医師のあり方と考えられるという

(公社)東京都獣医師会 災害時獣医療支援チーム「東京VMAT」を立ち上げる

 1月22日(日)、都市センターホテル(東京都)にて、「東京VMAT」立ち上げに伴い任命式が開催された。
VMAT(Veterinary Medical Assistance Team;災害時獣医療支援チーム)は、災害時に被災地における獣医療支援などを行うために、専門的な教育をうけた獣医師を主体とした獣医療チームである。主な活動内容は、被災地の調査、被災地における連絡体制の確立、現地動物病院の業務再開に向けた支援、情報の収集と共有、災害救助犬の治療などを行う。

 日本では2011年の東日本大震災の経験をふまえ、2012年に日本ではじめて、福岡県獣医師会が「福岡VMAT」を組織。その後、複数の地方獣医師会がVMATを結成している。
 この度、(公社)東京都獣医師会(以下、本会)は2023年1月22日にVMATを組織し、「東京VMAT」の第一期隊員として18人を任命した。今後は都内で災害が発生した場合、被災地域支部からの要請および本会危機管理室長(災害対策本部設置時には災害対策本部長)の判断により、活動可能な東京VMAT隊員のなかから派遣隊を組織し必要な活動を行うこととなる。また、東京都以外の道府県の災害発生時は、当該地方会および(公社)日本獣医師会からの要請により、本会の危機管理室長の判断にて同様の活動を行うことができる。

 「東京VMAT」は本会の危機管理室が定めるVMAT研修プログラムの修了者により構成される。このプログラムは、本会会員または会員が開設する動物診療施設勤務者などが受講できるが、当面の間は会員獣医師に限られる。研修プログラム修了者には「東京VMAT隊員証」が授与され隊員名簿に登録される。所定の研修を修了した者に「東京VMAT隊員証」を授与され隊員名簿に登録される。

 「災害時は自助、共助、公助、そして互助の精神が大切です。お互いに助け合わなければ。」と上野会長。万が一の災害発生に備え、獣医師会全体として日頃からの協力体制づくりが重要であることを再認識する任命式であった。


上野弘道先生(危機管理室長/(公社)東京都獣医師会 会長)。
「互助」の精神が大切であると語る


藤本順介先生(危機管理室情報統括/東京都獣医師会 武蔵野三鷹支部)。
本会の災害対応の特徴や東京都の被災想定など、東京VMATをとりまく
最新の状況を解説された


任命式の様子。所定の研修を修了した有資格者には
「東京VMAT任命書」が授与され、東京VMAT隊員名簿に登録される


任命式にて。「東京VMAT」第一期隊員の方々とブロック長の羽太真由美(町田支部)、伊東秀行(葛飾支部)。
第一期隊員は、安部浩之(城北支部)、石森斉子(江東支部)、磯 洋一(足立支部)、入交眞巳(動物薬事支部)、植松一良(多摩西支部)、河合博明(八王子支部)、木村章子(多摩西支部)、木村譲(多摩東支部)、斎藤朋子(八王子支部)、斉藤勝之(新宿支部)、清野光司(多摩西支部)、髙橋恒彦(新宿支部)、谷川久仁(中野支部)、中川清志(北多摩支部)、中島 豪(多摩東支部)、名川一史(練馬支部)、藤本順介(武蔵野三鷹支部)、安田辰巳(江戸川支部)※敬称略

第27回 日本獣医がん学会開催される

 2023年1月28日(土)と29日(日)、ホテルニューオータニ大阪において第27回日本獣医がん学会が開催された。さらに両日の様子は、2月7日(火)~2月28日(火)にわたり、VETSCOPE(http://vetscope.vet/)においてオンライン録画配信された。
 会場展示11社、ランチョンセミナー協賛2社、講演要旨集広告協力6社、オンライン協力・動画CM協力2社による協賛があり、会場参加者は430名、オンラインも含めた総参加者は約900名であった。昨年夏の東京会場開催から会場参加者も増加し、感染症対策を施しながら本格的に再始動した印象の大会となった。
 会場では、獣医師と医師がそれぞれの立場から「がん終末期のケア」をテーマに講演と総合討論を行った。また、「外科シンポジウム」でも獣医師と医師によって「頭頸部腫瘍切除後の再建外科」が講演された。そのほか、「総合教育講演」、「教育講演」、「一般口演/臨床研究・症例報告」に加え、「トピック:Veterinary Cancer Society アップデート2022」では獣医腫瘍学のホットトピックが解説・紹介され、会場参加型企画「続・仮説演繹法を用いた診断ステップ」も昨年夏に引き続いて実施された。このように充実したプログラム各会場では、参加者の熱心な意見交換がみられた。

メインシンポジウム総合討論の会場の様子

第12回 動物看護大会

 第12回となる(一社)日本動物看護職協会主催「動物看護大会」が2022年12月12日〜2023年1月8日(当初の終了日2022年12月25日から好評につき延長された)、昨年同様オンラインにて開催された。今回は、愛玩動物看護師国家試験直前のタイミングということから、「愛玩動物看護師 国家資格取得後の未来」をテーマに、国家試験対策に重きを置いたセミナーが多数用意された。

 動物看護師という職業の歴史を振り返る「イギリス・アメリカ・日本の動物看護の歴史から見る愛玩動物看護師」(山川伊津子先生、ヤマザキ動物看護専門職短期大学)をはじめ、動物看護師の資格制度の先進国であるアメリカと日本の現状を比較し、愛玩動物看護師がどのような資格へと発展していくべきかを考える「ケアの質、やり甲斐、利益の交差点:愛玩動物看護師をどう活用するべきか?」(Kenichiro Yagi氏、獣医療救急グループ主任動物看護師兼RECOVERプログラムディレクター)は、改めて今、獣医療関係者が当事者としてみるべき内容ではないかと思われた。

 国家試験対策として「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」(西村裕子先生、千葉科学大学 動物危機管理教育研究センター)、「統一認定試験徹底分析 そこから読み解く国試攻略法」(鈴木 勝先生、獣医師国家試験対策研究会代表)といったセミナーでは、どのように試験対策を練るべきかや、効率のよい勉強法が具体的に示され、試験勉強に苦慮する受験生への力強いエールとなったと思われる。

 また、座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」では、Yagi氏、末松正弘先生(AMC末松動物病院院長)、横田淳子日本動物看護職協会会長、中村陽子同副会長が、それぞれの立場から描く愛玩動物看護師の目指すべき姿や目標を語る、熱のこもった内容であった。なかでも、Yagi氏の「動物看護師は離職率が高い。離職させないためには、周囲から評価を得てモチベーションを維持する必要がある」「そうした点も含めて獣医師にリーダーシップを求めたい」といった言葉は、今後、愛玩動物看護師が活躍するうえで重要なポイントとなっていくのではないだろうか。また、末松先生からは、「愛玩動物看護師が誕生したあとの継続的な支援、待遇をどのようにすすめるかを考える必要がある」といった、獣医師、動物病院の経営者の立場からのお話も伺うことができた。

 愛玩動物看護師の誕生は、当事者である愛玩動物看護師を目指す者だけでなく、すべての動物医療関係者に大きくかかわる出来事でありながらも、これまでは、どのように具体的にかかわるかについてはっきり語られてこなかったのではないかと思われる。同大会のような場を通して、さまざまな立場で愛玩動物看護師という新しい職業について考え、討論することが愛玩動物看護師、ひいてはこれからの獣医療をつくっていくことにつながるのではないだろうか。

(一社)日本動物看護職協会HP https://www.jvna.or.jp/

座談会「愛玩動物看護師のこれから ~海外の現状から学ぶ、日本の明るい未来へ向けて~」の様子



西村裕子先生「国家試験対策「過去問がないということ」~礎となる技術はある。あとは効率的に~」の様子

第109回HGPIセミナー「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える」開催

 12月9日(金)、日本医療政策機構(HGPI:Health and Global Policy Institute、代表理事、黒川 清氏)による、第109回HGPIセミナーがオンラインにて開催された。
 本機構は非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクとして2004年に設立された。設立以来、中立的かつグローバルなシンクタンクとして、市民主体の医療政策を実現すべく、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供している。

 109回を迎えるこの度のセミナーは「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える-薬剤耐性の現状と対策・伴侶動物と新興感染症」をテーマにオンラインで配信。薬剤耐性(AMR)への対策について、村田佳輝先生(むらた動物病院、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター、獣医臨床感染症研究会(VICA))が登壇し、「1.One Healthの知識/人獣共通感染症とその対策」「2.小動物臨床での抗菌薬使用状況」「3.小動物臨床での分離菌」「4.小動物臨床での薬剤耐性菌の現状」「5.薬剤耐性(AMR)対策と獣医臨床感染症研究会(VICA)」の5つの項目にわけて詳細に解説。
セミナーでは咬傷感染症やレプトスピラ症、SFTS、Q熱、ブルセラ症といった人獣共通感染症での症例ごとの感染防御方法や、耐性菌の出現要因として抗菌薬の過剰使用や誤用について、獣医師の立場から解説。愛玩動物での抗菌薬販売量や尿培養分離菌種別の薬剤耐性率といった内容が、ご自身の動物病院や、会長を務める「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の過去データや症例をまじえ、詳細にかつわかりやすく紹介された。
 小動物臨床において薬剤耐性菌は増加傾向にあること、抗菌薬の慎重使用の徹底、抗菌薬使用量の調査継続の重要性、また2013年に臨床獣医師の有志により立ち上げられた「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の活動内容も紹介された。同会の動物病院の単位であるもののアンチバイオグラム(薬剤感受性率)の利用で広域抗菌薬の慎重使用による耐性菌の減少が数値で示され、その結果、アンチバイオグラムの効果的な利用により耐性菌減少が可能であることが証明されたという報告がなされた。

 本セミナーは獣医師の他、幅広い職種の、そして広い年齢層の聴講者が参加し、最後の質疑応答では、獣医療以外の多角的な視点からも質問が多数よせられた。村田先生が獣医師の立場から、新型コロナウイルスとの関連、動物-ヒトへの感染、体重や年齢とAMRの関係、2023年から国家資格者が生まれる愛玩動物看護師の役割、地球規模で最も危惧されている、過剰に抗菌薬を含んだ下水を魚たちが体内に取り込んでしまう問題など、一つひとつ丁寧に回答されている姿が印象的であった。
 最後に「小動物の話を通して、感染症問題の全体像を感じることができるセミナーであった」とHGPI代表理事の黒川氏が、本セミナーの印象を語った。

日本医療政策機構の詳細及び当日のセミナー概要は以下URLからも閲覧可能。
https://hgpi.org/
https://hgpi.org/events/hs109-1.html


講演中の村田佳輝先生。オンラインセミナーの一画面

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