12月9日(金)、日本医療政策機構(HGPI:Health and Global Policy Institute、代表理事、黒川 清氏)による、第109回HGPIセミナーがオンラインにて開催された。
 本機構は非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクとして2004年に設立された。設立以来、中立的かつグローバルなシンクタンクとして、市民主体の医療政策を実現すべく、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供している。

 109回を迎えるこの度のセミナーは「小動物臨床現場での感染症とその未来を考える-薬剤耐性の現状と対策・伴侶動物と新興感染症」をテーマにオンラインで配信。薬剤耐性(AMR)への対策について、村田佳輝先生(むらた動物病院、東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター、獣医臨床感染症研究会(VICA))が登壇し、「1.One Healthの知識/人獣共通感染症とその対策」「2.小動物臨床での抗菌薬使用状況」「3.小動物臨床での分離菌」「4.小動物臨床での薬剤耐性菌の現状」「5.薬剤耐性(AMR)対策と獣医臨床感染症研究会(VICA)」の5つの項目にわけて詳細に解説。
セミナーでは咬傷感染症やレプトスピラ症、SFTS、Q熱、ブルセラ症といった人獣共通感染症での症例ごとの感染防御方法や、耐性菌の出現要因として抗菌薬の過剰使用や誤用について、獣医師の立場から解説。愛玩動物での抗菌薬販売量や尿培養分離菌種別の薬剤耐性率といった内容が、ご自身の動物病院や、会長を務める「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の過去データや症例をまじえ、詳細にかつわかりやすく紹介された。
 小動物臨床において薬剤耐性菌は増加傾向にあること、抗菌薬の慎重使用の徹底、抗菌薬使用量の調査継続の重要性、また2013年に臨床獣医師の有志により立ち上げられた「獣医臨床感染症研究会(VICA)」の活動内容も紹介された。同会の動物病院の単位であるもののアンチバイオグラム(薬剤感受性率)の利用で広域抗菌薬の慎重使用による耐性菌の減少が数値で示され、その結果、アンチバイオグラムの効果的な利用により耐性菌減少が可能であることが証明されたという報告がなされた。

 本セミナーは獣医師の他、幅広い職種の、そして広い年齢層の聴講者が参加し、最後の質疑応答では、獣医療以外の多角的な視点からも質問が多数よせられた。村田先生が獣医師の立場から、新型コロナウイルスとの関連、動物-ヒトへの感染、体重や年齢とAMRの関係、2023年から国家資格者が生まれる愛玩動物看護師の役割、地球規模で最も危惧されている、過剰に抗菌薬を含んだ下水を魚たちが体内に取り込んでしまう問題など、一つひとつ丁寧に回答されている姿が印象的であった。
 最後に「小動物の話を通して、感染症問題の全体像を感じることができるセミナーであった」とHGPI代表理事の黒川氏が、本セミナーの印象を語った。

日本医療政策機構の詳細及び当日のセミナー概要は以下URLからも閲覧可能。
https://hgpi.org/
https://hgpi.org/events/hs109-1.html


講演中の村田佳輝先生。オンラインセミナーの一画面