2023年5月12日(金)、岡山理科大学今治キャンパス(愛媛県今治市)にて「疫学講座公開セミナー 獣医師の多様な職域を考える-先輩獣医師に聞くキャリア形成-」が開催された。本講座は岡山理科大学獣医学部疫学講座のセミナーとして、ロイヤルカナン社の協力のもと、獣医学科の3年生136名(その他希望者を含む)を対象に実施されたものであり、講師として、企業の社員、公務員、臨床獣医師、そして大学教員とそれぞれの職域で現在活躍されている獣医師が参加し、各々の立場から当人だから知り得る情報をもとに講義が行われた。
 司会進行は同大学の深瀬 徹先生、そしてパネルディスカッションのファシリテーターとして太田亟慈先生(犬山動物総合医療センター)を迎え、当日15時から開始となった。
 
 第1部「様々な獣医師の職場の紹介(講演)」では、はじめに「データからみる獣医学部学科学生の就職」と題し、氏家貴秀氏、尾身衛祐氏(ともにロイヤルカナン ジャポン)からは、獣医学生の希望進路や意識調査など就職に関する具体的なデータが、グラフを活用して紹介された。
 次に「製薬企業で働くということ 共立製薬の場合」では、現役の社員である豊田一秀氏(共立製薬(株)営業企画部CA学術課)から、実際の業務内容や職場の環境、自身が転職をした動機やその流れなどが紹介された。
 そして、「国家公務員の仕事 -農林水産省獣医系技術職員を例にして-」では、森口優佳氏(農林水産省動物検疫 神戸支所)から国家公務員を目指したきっかけや農林水産省の採用区分、採用試験の内容および採用実績、実際の公務員獣医師の業務やその魅力について紹介された。
 さらに「私はどうして小動物臨床を希望したか」では、村山果穂先生(JASMINEどうぶつ総合医療センター)が、新卒1年目の立場から、小動物臨床への就職を決めるまでの流れとその決めた理由を具体的に紹介された。
 最後に「小動物臨床の仕事 -個人病院から二次診療施設、大手企業病院まで、私の勤務経験をもとに-」では、中村有加里先生(岡山理科大学獣医学部)から、動物病院の経営スタイルについて、実際に勤められた計5つの動物病院のそれぞれの診療数や1日のスケジュールなど、多様なスタイルの病院の具体的な勤務実態が説明された。
 
 第2部「獣医師のキャリア形成のために(パネルディスカッション)」では、太田亟慈先生をファシリテーターに、第1部の講師の方々が壇上に上がり、キャリア形成に必要だと思われるテーマに沿ってディスカッションが行われた。太田先生のこれまでの経験や考え方などを中心に議論は展開し、その途中では会場から質問を受け付ける機会が設けられた。学生からの「どのような人材が望まれるか」という質問では、挨拶、コミュニケーションスキル、リスクアセスメント、また周りとの調整能力などの回答が返された。
 
 第3部では、将来の仕事に関する個別相談会が開かれ、第1部の講師陣1名ずつに個別の部屋が設けられ、話をききたい講師の部屋を学生が巡るスタイルで行われた。加えて、第1部の講師のほか、地方公務員獣医師としての仕事を稲谷憲一氏(愛媛県農林水産部農業振興局畜産課)、田坂紀博氏(愛媛県保健福祉部健康衛生局薬務衛生課)の話がうかがえる部屋が設けられ、計5部屋が準備された。
 
 取材した印象としては、学生の意識も様々であり、進路は未定だがとりあえず話をきいてみようという学生、野生動物に関する仕事に就くための就職先を知りたい学生、転職によるキャリア形成への影響についてききたい学生など、それぞれの悩みが多様で、非常に興味深いものであった。また、参加者は3年生だけでなく4年生や6年生もおり、学年ごとに悩みの内容も異なると思われた。
 会場の学生に現在の希望進路を挙手にて尋ねる機会があり、印象的には小動物臨床を考えている学生が比較的多いようであった。ただ、セミナー内のデータでは小動物臨床を選ぶ学生は、現在、全体の約40%との説明もあるなど、臨床現場への就職者が減少している事実は否めない。ただ、ポジティブに考えれば獣医師の職域の広さを表すものであるともいえ、単なる取材で参加した弊社にも積極的に声をかけてくれた学生もいた。獣医学生の未来は幅広く、そして明るいものであると感じた次第である。
 そして、岡山理科大学の獣医学科は来春、初の卒業生を輩出することとなる。学生および先生方は注目を浴びていることを感じながら、より高い意識で卒業、そして国家資格取得に向けて準備をすすめているといえる。獣医療の未来をつくるのは、今の学生たちであり、岡山理科大学の学生だけでなく、全国のすべての獣医学生が希望する未来に向かってつきすすんでくれることを願うばかりである。
 

会場の様子