2024年8月31日(土)および9月1日(日)、ヤマザキ動物看護大学 南大沢キャンパス(東京都八王子市)で、(一社)日本動物看護学会 第33回大会が開催された。
 今大会のテーマは「過去から繋ぐ動物看護学の未来探究」。
 初日はアメリカから招聘されたSandy Gregory先生(アメリカ動物看護師リハビリテーション協会会長)による基調講演「アメリカの動物看護に見る日本の動物看護学の未来探究」からスタート。豊富な臨床経験を通して、アメリカでの動物看護師の認定資格の取得や各州のちがい。救急・歯科・内科・循環器・麻酔/鎮痛・病理・眼科・行動診療・栄養学など専門性の高いスキルの保持などが紹介され、日本における愛玩動物看護師の今後の方向性が提案された。
 続く教育講演①では「在宅訪問における愛玩動物看護師の役割-過去30年から繋がる大切にしたいもの そしてアップデート-」と題し吉田尚子氏(家庭動物診療施設 獣徳会 獣医師)、村上明美氏(同上 愛玩動物看護師)が、獣医師と愛玩動物看護師のそれぞれの立場から、チーム獣医療のなかで、在宅看護における愛玩動物看護師の活躍が今後ますます期待されると講演。

 2日目のシンポジウムでは「被災動物の支援における動物看護師の役割」と題し基調講演として会田保彦氏(ヤマザキ動物看護大学 名誉教授)による「東日本大震災の検証と次に備える」が行われた。そして「能登半島地震における被災動物の救援について」のテーマで、大聖寺谷 敏氏((学)国際ビジネス学院 理事長)をパネリストに迎え実施された。
 シンポジウムでは東日本大震災の被災状況が写真を使って会田氏より解説され、この震災の際に、動物救護の中心メンバーとなった故馬場国敏氏(馬場総合動物病院 獣医師)の献身的な数々の活動が紹介された。会田氏は被災地での動物救援の重要性を訴える上で、「現状では有事に被災地で愛玩動物看護師が組織的に活躍する体制が整っていない。学会を中心としてでも将来的には組織作りが必要である」と提言した。
 大聖寺谷氏は、今年元旦に起きた令和6年能登半島地震を挙げ、発災時からの8ヵ月経過したこれまでの取り組みを紹介。地震発災後に石川県、石川県獣医師会がそれぞれ“人”と“動物”の救助活動を分担したこと、自身の学校で被災動物の一次受け入れから譲渡会までを実施していることを紹介。また、石川県がペット同室避難用のトレーラーを用意したものの、周知が足りず、利用者は1件であったことを例に、 “周知の大切さ”も実感したという。また、発災から8ヵ月が経ったものの、復興への道はまだ遠く、さらなるボランティアの必要性があると会場へ訴えた。
 教育講演➁ではフリッツ 吉川 綾氏(ヤマザキ動物看護大学 准教授)による「臨床行動学-臨床現場で働く愛玩動物看護師への期待-」が行われた。臨床現場で働くすべての愛玩動物看護師に期待することとして「情報提供を通じた問題行動の予防」「問題行動の早期発見と適切な対応の第一歩」「動物の心理的ストレスに配慮した看護」の3つの項目を挙げ解説していった。愛玩動物看護師には、犬猫の心理的健康の維持・向上のために、ますます中心的な役割を担ってもらいたいとの期待を述べた。

 今大会は一般演題は口頭発表23題、ポスター発表が21題が発表され、口頭発表では優秀賞を「動物福祉を考えたヘマトクリット管実習における擬似血液の応用」(喜多虹帆氏(日本獣医生命科学大学)ほか)、奨励賞を「産業動物分野における動物看護師の職務と可能性-自身の現場経験を通して-」(秋吉珠早氏(北海道農業共済組合研究所)ほか)、ポスター発表では優秀賞を「猫用トイレ砂の量の違いにおける排泄行動の比較」(小野寺 温氏(帝京科学大学)ほか)、奨励賞を「小動物用呼吸数測定デバイスの開発と測定精度の検討」(大久保明梨氏(岡山理科大学)ほか)が受賞した。
 また「ネコAB式血液型を分類するカード凝集法とイムノクロマト法の比較試験と不一致例の新規同定」(中村知尋氏(〈公社〉日本小動物医療センター)ほか)と「真菌性鼻炎を呈した犬に対する生理用ナプキンを用いた動物看護介入の一例」(安藤真葵氏(岡山理科大学)ほか)が惜しくも受賞は逃したものの注目すべき発表であったことが選評に加えられた。
 またランチョンセミナーは「愛玩動物看護師の愛玩動物看護師による愛玩動物看護師のための教育」(主催:VCA Japan 合同会社)、「服薬コンプライアンスの改善~薬局の服薬指導の視点から~」(主催:株式会社12(わんにゃん)薬局)が実施された。

 今大会の参加者はオンライン参加含め611人。台風の影響下、大会中は雨もやみ天候に恵まれ、2日間の大会は学びの意欲にあふれる参加者たちの熱気に包まれた。
 次回第34回大会は2025年8月中に酪農学園大学(北海道)で開催予定。
 本学会の詳細は下記より。
 https://www.jsvn.gr.jp/


セントヨハネホールにて行われた開会式の様子。台風が接近するなか、
両日とも天候に恵まれた


第33回大会長 山﨑 薫 氏((学)ヤマザキ学園理事長、
ヤマザキ動物看護大学学長)による開会式の挨拶


本学会理事長の石岡克己氏(日本獣医生命科学大学 教授)、
開会式の挨拶にて


Sandy Gregory先生(アメリカ動物看護師リハビリテーション協会会長)による基調講演の様子


吉田尚子氏(前出)、村上明美氏(前出)による教育講演①「在宅訪問における愛玩動物看護師の役割-過去30年から繋がる大切にしたいもの 
そしてアップデート-」台風の影響で当日はオンラインでの開催となった


シンポジウムで講演をされる会田氏(前出)。気仙沼市大震災遺構・伝承館(宮城県立水産高校の跡地)、石巻市立大川小学校の慰霊碑、仙台市若葉区の荒浜海岸の巨大防災堤のスライドを公開され会場は息をのんだ。
また「津波てんでんこ」という言葉を通して、ときには皆が助かるうえで
一人ひとりの自助が大切になることを伝えた


シンポジウムでパネリストをつとめた大聖寺谷氏(前出)。
台風の影響で急遽、オンラインでの登壇となった。
能登半島地震から8ヵ月が経った被災地の復興に向けての現状を会場に伝えた


教育講演➁でのフリッツ 吉川 先生(前出)。
犬猫の心理的健康の維持・向上のために、臨床行動学においても、愛玩動物看護師に中心的な役割を担ってもらいたいという


閉会式。林 英明氏(酪農学園大学 教授)。来年の第34回大会は、
酪農学園大学にて実施される